16.
第三話 麻雀大会をしよう!
「さて、今日は全員集合するわけだけど1年生が遅いわね」
「なんか買い物してから行くって言って駅前で2人はいなくなりました」とアンが報告する。
ガチャ
「お邪魔しまーす!」
(佐藤家は基本的に鍵を閉めていない)
ヤチヨとヒロコが遅れてやってきた。何やらガサガサと袋の音がする。
「何買ってきたの?」
「カップ麺を人数分とお菓子を少々と飲み物を大量に買いました」
「え、気が利くけど…… なんで?」
「なんでって今日は金曜日ですし多少遅くなっても明日は休み、8人いるならトーナメント戦で麻雀大会をやりたいなって」
「やりますよね?」
そんな話は聞いてない、だが答えは全員聞くまでもなかった。
「やるに決まってるわ!」
マンズを引いたらAグループでピンズを引いたらBグループということにして8人はまずトーナメントのグループ分けをした。
ユウ「③筒」
ミサト「二萬」
ヤチヨ「①筒」
マナミ「②筒」
アン「三萬」
スグル「一萬」
ヒロコ「④筒」
てことは、私は四萬か……とカオリも最後の1枚を一応盲牌すると。
カオリ「伍萬……?」
めくってみたら四萬じゃなかった。
「5入ってんの? 4までじゃなく?」
準備したのはユウだった。
「いいじゃない、マンズかピンズなら。ちょっとパッと見で四萬が見つかんなかったのよ」
問題ないが少し驚いたし、嬉しかった。実を言うとカオリが一番好きな牌はこの『伍萬』なのである。他のマンズはただの漢数字なのに何故だか5だけは人偏がついているということ。そしてその文字の意味は『対等』や『仲間』という意味があると言う事をカオリは知っていた。
「ううん、いいよ。私、伍萬好きだし」
まずは一回戦
Aグループ
ヤチヨ
マナミ
ユウ
ヒロコ
この4人の戦いだ。
場決め用にまずは東南西北を伏せてかき混ぜて掴み取りをする。ちなみにだが、この方位の順番は季節風の流れを表しているという説がある。春は東風。夏は南風。秋は西風。冬は北風だ。それを知ってると風牌がドラの時も分かりやすい。
ヤチヨ「西! やった!」
西家スタートあたりは得することが多い。南3局という重要な局面で親になることで一気に勝負を決めることが出来るし南2局までどんなにへこんでいても焦らずにいられるからだ。
ヒロコ「北。ラス親かあ」
北家スタートだとオーラスに親をやる事になるので親のうまみが少し少なくなる。最終局面だから親がどうであれ攻めるしかないと腹を括られる事があるからだ。特にこの麻雀部の面子だと腹を括って勝負に行ける肝の座った打ち手しかいなかったのでオーラスの親は少し嫌だった。ただ、オーラスまで逆転のドラマがあるという面白さはあるから嫌な事ばかりでもない。
ユウ「南。ホッ…… チーチャ苦手だから良かった〜」
マナミ「てことは私が起ち親ね! 東1局で終わらせてあげるわ!」
アガリの上手いマナミにはチーチャスタートは絶好のポジションであったし、ユウの麻雀は展開読みを得意とするので動きの一切ない東1局から親をやりたくはない。2人とも自分の引きたいポジションを引いているのは偶然とは言えさすがであった。
牌を混ぜる
ジャラジャラ――
自山を作り
――カシャン!
「「おねがいします!!」」
誰に習ったわけでもない。試合開始の挨拶は子供であれ自然と行う。それはしかし相手に向けているわけでなく牌に。麻雀に言っているのだった。その競技に対する礼儀。勝利への祈り。そして感謝。その心があると必ず挨拶してしまうのが雀士という生き物であった。
サイコロを振って開局。チーチャのマナミが自山の内壁に当てるように2個の小さなサイをヒュ! と投げる。
2と6の8
左8
マナミが左8からの取り出しをスッとノータイムで行って、東1局が始まった。
その取り出しの早さ。それだけで1年生達は少しビックリしていた。なぜなら左8という取り出しは素人なら数を数えて取るような、わかりにくい場所なのだ。それをノータイムで取るなど1年生には無理なことである。経験値の差がこれだけでわかるアクションだ。
まずはマナミが一歩リード。そんな立ち上がりだった。
148.第十話 完璧な配置 女流リーグ最終節を終えたその日の夜。マナミが機嫌良く入浴している間、3人(人?)は話していた。《いやー、おめでとうございます。カオリはやっぱり強いですねー。それにしてもマナミさんの逆転優勝は驚きました! 同テンなのに直撃取るなんて普通ありえないですから。劇的勝利でしたね!》〈強くなりましたよねマナミも。正直、私はもうマナミに必要ないのかも知れません。実はもう何日も前から私はマナミに指示を出していませんから〉(ラーシャもマナミに話しかけてみたらいいのに)〈彼女はそれを望んでいませんので……〉 《案外、仲良くなれるかもしれませんよ》(そうそう、私たちみたいにね)バン 風呂場の扉を開閉した音が聞こえる。マナミが風呂をあがったようだ。(あ、マナミがあがったから私もお風呂の準備するね。womanたちはまだお話ししてたら?)〈いや、私の声はマナミに届いてしまうので〉(あれ? そう言えば私はふたりのどちらの声も聞こえるけど)《カオリはセンサーが高性能な神探知機みたいなものです。普通、こちらが話しかけても届かないのが人間と神の関係ですから。まして、自分に憑いている神以外と会話する人間なんてカオリだけですよ》(へえ…… 私のおばあちゃんは巫女だったし覚醒遺伝的な神力があるのかな?)《おばあちゃんが巫女……》(?) するとマナミが部屋に帰ってきた。「カオリー。お風呂あいたよー。入るでしょー?」「うん。入る」 暑かった季節は終わりを告げ、今日はもう肌寒くて湯船がとって
147.第九話 クライマックスの奇跡 女流リーグ第3節はメグミはコケていたが財前姉妹やミサトやヤヨイはガンガンポイントを叩いていた。 女流リーグは人数が少ないため次回第4節が最終節となる全16半荘制だ。メグミは今回コケたのは痛かった。とは言え、第1節第2節で貯めたポイントがあるので昇級はしそうではある。しそうではあるが、首位昇級が狙えたのでそこは残念だった。いや、まだ諦めるには早すぎるが。 ちなみにAへの昇級は5人だけ。丁度この5人が昇級で決まりのような、そんな予感がしていた。 そして、第3節も終了して運命の最終節。 最終節はマナミとヤヨイとメグミが同卓で首位昇級を賭けた戦いになっていた。メグミだってここで大きく叩けば首位昇級がまだある。少しはそう考えたが。前に出れば出ただけリスクもある。ここで無理しては昇級ラインから落ちる可能性もあるのでメグミは戦闘を避けることを選択。Bリーグ優勝よりもメグミが求めているのはAリーグ参戦という権利であった。そこに師である杜若茜(かきつばたあかね)が待っている。だから行かなければならない。そう思っているのだ。 その考えはカオリもそうで、カオリはマナミたちと別卓だが(5位までに入ればいい)という考えで最終節は守り主体の麻雀をやり抜いた。ミサトに関してはいつも通りだ。守り主体が通常運転であるので今日もそうした。 カオリとミサトはそつなく最終節を終わらせてマナミたちの卓を見に行く。すると丁度オーラスになった所だった。 ここでカオリたちはクライマックスの奇跡を目撃することになる。 オーラスの親はメグミで、メグミはノーテンで伏せれば昇級なので連荘はない最終局。 接戦なのはヤヨイとマナミの2名。この2人の勝った方がBリーグ優勝になる。そんな場面だった。オーラスの並びは
146.第八話 ドライブスルー 喫茶店『グリーン』は店舗の拡張を行った。厨房の壁側に出窓を設置してそこでドライブスルー出来るようにしたのだ。 それはドライブスルーだけが目的ではなくて、麻雀教室に来てる人にも注文の受け取りが簡単になるようにした一石二鳥のアイディアだった。 この提案はユウの思い付きによるものだ。一度、アイスコーヒーを麻雀教室まで持って行こうと思って持ち歩いていた時に渡り廊下の段差で躓いてこぼした事があり、足は痛いわ、グラスは割るわ、コーヒーはぶちまけるわ、恥ずかしいわで散々だったため持ち込むのではなくてすぐ近くに受け取り場所があればいいのにな、と思ったのがきっかけだった。 それを言うとすぐに実行に移すグリーンのオーナーたちはさすがの行動力と資金力だ。「うん! いい出窓が出来上がった! これでここにインターホンを付けてすぐ隣に扉を設置したら完成ね」「扉があることによって何かと便利にもなるし、これはいいアイディアでしたね」「簡易的なレジも設置しましょう。小銭のやり取りで時間を取られないように」「そうね、これから楽しみね。良かったわ、広い駐車場で。おかげで麻雀教室は設置されるし、ドライブスルーも出来るようになるしで夢が広がるじゃない」 その数ヶ月後。麻雀教室とドライブスルーは一気に完成する。それにより、駐車場スペースに麻雀教室がある事が自然と知れ渡り、ドライブスルーは麻雀教室の宣伝にもなったのだった。 ここまでは予想してなかったので嬉しい誤算。まだ、アンが高校を卒業していないので麻雀教室の本格的な営業開始は春からとしようと思っていたが「裏の駐車場にあるあの麻雀の教室? いつからオープンするの? 始まったら教えてほしい」という客がチラホラ出ていて、ユウとアンの麻雀教室は明らかに2人だけでやるには人気がありすぎると思われた。「どうするこれ。多分、スタッフ足らないよ」とユウがアンに嬉しい不満を言っていた。 それを見た倉住ショウコが「なによ、私もいるじゃない。3人なら大丈夫
145.第七話 次世代のスーパーヒーロー「井川さんー! すごかったです!」「『ミサト』でいいって」「あっ、そうだった。へへ……。つい、尊敬しちゃって」「ふふふ、ありがと。凄いってあれの事でしょ? 打九ダマ」「そうです。何であんな芸当が出来るんですか?」「まあ、読みよね。ああいうのは本来、同じ麻雀部の『竹田杏奈(たけだあんな)』って子の方が得意でね。今度ユキにも紹介してあげるね。まだ高3なんだけど、鋭い読みで魔術みたいな麻雀をするの」「へえーー! それは会ってみたいです!」「ね、敬語やめない?」「あ、すいませ… ごめんね」「いや、謝るこたあないケドね」 ミサトがタイトルホルダーの実力を見せつけている所、一方で財前姉妹はと言うと。こちらも難なく勝ちを重ねていた。 奥の方に記者のような人達がいるのが見える。(きっと美人姉妹なカオリたちを取材に来たに違いない) そうは思っていたものの、本当にその通りであったので、ミサトは少しだけ悔しくもあった。(私なんて新人王なのにな)「ミサトなんて新人王なのに、こっちも少しくらい取材したら? って思うよねー」 ユキがミサトの心を見透かしたようにそう言った。「そんなことないよ、カオリたちが話題性があるのは間違いないし」(まるっきり心を読まれた?! 顔に出てたのかしら? 恥ずかしいな)「私は断然ミサト派。スタイルもミサトの方がいいし。公言するけど、私はミサトの1番のファンですからね」「わかったから…… 照れるからそう言うの言わなくていいって…… 嬉しいけどさ」「ちょっと! 第1節第2節と絶好調な私のことも取材していきなさいよ!」とメグミが記者
144.第六話 狙撃 今日は女流リーグ第2節。 ミサトのことを新人王だと知った飯田ユキが今日は観戦に来ていた。(えーと、井川さんはどこかなー。あ、いたいた) ミサトの卓を見てみると、もう南2局だった。ミサトは25000点持ちの二着目。(あれ、開始15分でもう後半戦になってるんだ。早いな。ていうか井川さん25000点持ちってもしかして一度も点数動いてないの?) そうなのだ、この卓はロンの応酬で進んでおり連荘もなく、ミサトは持ち点を動かさずに南2局まで進めていた。しかし、そのように仕向けたのはミサトであり、この展開はミサトが作り上げたものだったのである。 この日のミサトは手が悪かった。なので威嚇するように仕掛けをしておいてその実テンパイしておらず、ミサトばかりを気にして警戒した結果、他の人に放銃。それの繰り返しで南2局まで失点ゼロに抑えたのだ。そのような芸当が出来るのは新人王というタイトルがあればこそ。ミサトは自分のタイトルホルダーという立場を目一杯利用した戦略を選んでいた。さすがの対応力である。 そして今、ついにミサトに勝負手が入る。ミサト手牌二三三四伍六七八九⑥⑥45 6ツモ ドラ⑥ 一萬は三着目が3巡目と5巡目に捨てていて2枚切れ。 ユキは思った(これは絶対リーチ! 最高の仕上がりです! 一気通貫目指して全力で曲げましょう!)と。 しかし、ミサトはトップ目が前巡に少考して捨てた二萬に目をやっていた。トップ目はそれ以前に5索も捨てている。ミサトの思考(5索を先に捨てていながら一萬二萬とあり、さらにそれを結局中盤で払うなんてこと、あまりないな。一萬はあと2枚しかない
143.第伍話 ミサト、自動車免許を取る 井川ミサトは自動車免許を取る事にした。高校生の時は麻雀で忙しくてそんな時間は無かったのだが、よくよく考えたら大学生になっても麻雀で忙しいし、この先どう考えてもずっと麻雀で忙しい未来しか想像がつかなかったので。いま無理矢理にでも時間を作って取っとかないと一生取らない気がしたのだ。 ミサトはこういう所がカオリたちより少し賢い。いつも未来を冷静に見据えてるのが守備力にも繋がるということかもしれない。 「井川さん『かも知れない運転』を心がけてくださいね」と教官が言う。「分かりました!『かも知れない運転』ですね。それは得意分野です!」「えっ?」「私は守備派なので」(なんのこと?)「あの見通しの悪い丁字路の先に……」「そうそう、ああいうのの先に居るかも知れないですよね。警官が」「いや、警官もそうだけど子供想定してね?! ネズミ取りイメージしながらのかも知れない運転ってどうなの?」「あっ、違いました? ポリスメンがいたら危ないなーって思ったんで。あーゆーとこで張ってジャリンジャリン点数稼ぐイメージあるんですよねー」「ジャ…… 道路交通法守ってれば大丈夫だから!」「信号が黄色ですね。速度を落として……」「タイミング悪いので脇道に逸れましょう! ここを通れば信号を使わずに目的地まで行けます」「そうですけど! でも大通りで練習して下さい」「あ、すいません。私、危険は方針で根本的回避をするスタイルでして」「今日は天気が良くないですね、こんな時はいつも以上に安全運転を心がけましょう」「いえ、今日は天気が良くないから運転はやめておきます。危ないからベタオリで」「運転はしてね?!(